中途半端な20世紀史(前半)
いいところは高い評価のレビューを読んでいただくとして、バランスの意味で弱冠の苦言を。
まず、20世紀といっても別に欧米と中国、そして日本だけが世界の全てではない筈なのに、そこには中南米や中東、アフリカ、南・東南アジアへの視点は完全に欠落している。のみならず、文化史的な記述も(作家なのに)少なすぎ。キュビズムも未来派もゼセッションもCIAMもロストジェネレーションも一切言及なし。
全体への目配りがないのに反比例して自説は強硬に押し捲るからやたらと反復が多く途中で「もうわかったから」とうんざりする。第一次世界大戦の終結が第二次世界大戦に直結しているとの説は別に個性的な見解でもなんでもないが、それにしても本書には何度同じ論旨がでてくることか。
単行本にする際にもう一工夫必要ではなかったか。
歴史の一つの使い方
歴史を大学で勉強している人は、きっと受け付けないであろう内容です。しかし歴史には歴史学以外の側面もあり、普通の人々にとってはそっちの方が重要です。
一体歴史がなんの役に立つ?そんなときは是非一読を。目から鱗が落ちまくりです。
他の方も書いているように、本の始めから終わりまで読まなくても、興味ある年からパラパラと読んでいくのがおもしろいです。
山口百恵、松田聖子のくだりなどはとっつきやすいしわかりやすい。
どこかの偉い人の言葉で「人間は歴史から学んだということは一度もない」というのがありましたが、著者はしっかりと歴史から学んでいます。
もっと多くの人がこうやって過去を振り返らないといけないんじゃないのかなあ。
星4つなのは、別の本で著者の考えに触れているため、衝撃はそんなになかったという理由からです。
各年代の出来事を引き合いに出しながら、欧米からの仕掛けも指摘する。
あの「枕草子」や「徒然草」を、こうもおもしろく解説できる御仁も珍しいが、本書はその橋本先生が、1900?2000年迄の出来事を、年間別に等しい長さで、真面目に?解説する。
各年代の出来事を引き合いに出しながら、欧米からの仕掛けも、橋本氏ならではの独特な視点から、きちんと指摘する。
19世紀にヨーロッパに際立った「自己中心の大国観」などは、大変参考になる。
その意味から、併せて松原久子氏の本も薦めたい。彼女は主だったところ4冊出しているが、近著「驕れる白人と闘うための日本近代史」以外は、なぜか廃盤になっているのが残念。
化けること
20世紀を、1年ずつ、6ページのコラムで振り返るという内容。 橋本さんは昔編み物の本を書いたことがあるそうだ。これってちょっと象徴的なことかもしれない。セーターを編むという作業は、すごく大雑把に言うと、分解と再構築という作業で成り立っている。そもそもの羊の毛というのは、ごもごもごちゃごちゃぐちゃぐちゃしていて、とても(羊以外は)着られたものではない。で、それをまず解きほぐして、糸にする。で、糸をもう一回何らかの意図に基づいて再構成して着るものに仕立て上げるのだ。 歴史の素人の橋本さんが、この本でやっているのはまさにそういうことだ。ごもごもぐちゃぐちゃした歴史の出来事を、ほぐして、再構成する。羊毛を羊毛として描写するのではなく、それをセーターに仕立て上げてから読者の前に呈示する。それぞれの再構成の具合は、まあよしあしがあるけど、総じてユニークで面白い。 例えば、こんなくだりはどうだろう。 --- 十九世紀の後半、ヨーロッパは急膨張をして、世界中がヨーロッパの支配下に入りそうになる。しかしそうなって、たった一つへんな例外があった。東のはずれの小国日本である。他のヨーロッパ諸国は、ヨーロッパ化することを拒んで、みんなヨーロッパに吸収された。しかしこの極東の小国だけは、自ら進んでヨーロッパ化への道を選んだ。そのことによって日本は、"被害者"となることをまぬがれたのである。 そして日本はどうなるのだろう?やがて、"加害者"への道をたどるようになるのである。それが大国化を目指すヨーロッパ化の必然だからである。 (1905年の記述) --- 日本がたったひとつのへんな国だったということについて考えることはあまりない。そうだよね、普通は「〜化」を迫られたら拒否するのが人間だと思う。けど、進んで「〜化」を国単位でしようとしたのが日本だった。〜化っていうのは、文字通り化けることだから、なんていうか、明治以降の日本っていう国は、一種のお化けのようなものなんだな、と、思わされる。
橋本治節が冴え渡る!
「総論 二十世紀とはなんだったのか」の中で、 「二十世紀末に起こった日本の金融システムの危機は、 十八世紀の産業革命に由来する必然の結果だ」という結論が 示されます。 文面通り解釈すると(というかできない?)、意味不明ですが、橋本治の 説明を読んでしまうと(かれの別の著作同様)、妙に納得してしまいます。 このようにかれ独特の飛躍に満ちた論理が冴え渡ります。 そして、実際に読み進めるといかにムチャクチャな論理でも、 妙に納得させられてしまいます。その筆の進め方たるや、まさに職人芸です。 その職人芸で、二十世紀を上下巻合わせて、約650ページ (1年が6ページ分)で語り尽くしてしまうので、当然買いです。
筑摩書房
二十世紀〈下〉 (ちくま文庫) 恋愛論 (SB文庫) いま私たちが考えるべきこと (新潮文庫) これも男の生きる道 (ちくま文庫) 失楽園の向こう側 (小学館文庫)
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